ぎふ村理事長の詩 「わたしは私のことを忘れてしまいます。」(認知症)
2014/05/6
わたしは、私のことを忘れてしまいます。
あなたが、あなたであることも忘れてしまいます。
梔子の花の白さも、この静かな香りも忘れてしまいます。
一緒の夕景の刻の食事のしあわせを忘れてしまいます。
春を忘れてしまいます。
秋の日溜りを忘れてしまいます。
わたしは私であることを忘れてしまいます。
あなたがあなたであることを忘れてしまいます。
あなたのやさしさを忘れてしまいます。
あなたの手の温もりを忘れてしまいます。
好きであったあなたの笑顔も忘れてしまいます。
心の襞の中の記憶を忘れてしまいます。
わたしは私であることを忘れてしまいます。
あなたがあなたであることを忘れてしまいます。
一切を「さよなら」で彼方に忘れてしまいます。
私は見知らぬ街角にいます。
私は見知らぬ野山をさまよっています。
風が吹いていることも忘れてしまいました。
雨が降っていることも忘れました。
鼻水がたれていることも忘れました。
ただ、私は全てを忘れて呆然と立ちすくんでいます。
お願いです。
見知らぬあなたが、見知らぬ私にどうぞ声をかけて下さい。
ただ、見知らぬあなたのやさしさだけを下さい。お願いします。
親切などいりません。
ただ、やさしさだけを下さい。